手織をしていると、いつの間にか織巾が縮んできてしまって困ったことはありませんか?
あるいは、織地の表面に緯糸がひょろひょろと浮いてきてしまって、不恰好な仕上がりになっちゃったな......と悲しい思いをしたことは?
そういった問題は、緯糸の緩みを適切に取ることで解決します。
綺麗に織物を織るコツ①-織地の「耳」を考える- と合わせて確認して、耳までピシッと綺麗に織れるように、適切な緯糸の緩みとは?を考えていきましょう!
目次
なぜ緯糸の緩みを取る必要があるのか
緯糸に緩みを取る理由は、「織巾を縮ませないため」です。
なぜ緯糸の緩みが足りないと織巾が縮んでしまうのか、少し考えてみましょう。
上の図は、経糸を筬の部分で切ったとして、断面を真正面から見たイメージ図です。
図の上のように緩みを取らずに緯糸を入れると、図の下のように緯糸が経糸の間を上下に渡るための、本来必要になる余裕がありません。
緩みを取らずに織り進めると、適正な長さのない緯糸に引っ張られて巾が狭まり、結果的に織巾が縮んでしまうのです。
縮んでしまった幅に合わせてそのまま織り進むと、どんどん耳の部分が狭まってしまいますので、縮ませないようにしっかりと緯糸の緩みを取ることが大事になります。
また、織巾が縮んでしまうと、織っている途中に経糸が切れる原因にもなります。
上の図は、かなり織巾が縮んでしまっている様子を簡略化して、上から見た図です。
筬の部分と、すでに織地を作っている、織巾が縮んでしまった部分とで経糸の位置が大きくずれているのがお分かりになるでしょうか?
この状態で筬を打ち込むと、筬目の仕切りに当たって経糸が擦れてしまい、特に耳の部分(図で言うところの赤い部分の経糸)には大きく負担がかかり、織っている途中で切れてしまう原因になります。
また更に、真っ直ぐではない経糸が筬の動きが邪魔したり、その部分だけテンションが不揃いになっている影響で狙い通りに筬を打ち込めず、適切な緯密度で織れなくなってしまいます。
こういった事態を回避するためにも、織巾を縮めてしまわないように緯糸の緩みを適切に取る必要があります。
緯糸の緩み(山)の取り方
基本的な緩みの取り方は上の図のように、中央を高く山形に取るか、斜めに取るかのどちらかです。
どちらの方法でも仕上がりに変わりはないので、ご自身でやりやすいと思える方を選ぶのがいいでしょう。
どちらにしても、折り返しの部分で経糸を引っ張らないように、けれど余分な余裕を作って耳をだぶつかせてしまわないように、両耳は経糸に沿わせるようにして緯糸を入れるのがポイントです。
緯糸の緩みを取る量の考え方
緩みを取る量、つまり山の高さは、
・経密度
・織組織
・糸の素材と作り
・技法
によって変わってきます。
これらの条件に対して、緩みが少なければ織り巾が縮んでしまい、反対に多すぎると緯糸がダボついて織り地の表面が凸凹してしまいます。
ここで、なぜ緯糸の緩みを取る必要があるのか の段で出した図をもう一度ご覧ください。
経糸に緩みを取らないと、緯糸が経糸の間を上下に渡るための長さが足りなくなってしまうとご説明しましたよね?
そのせいで緯糸が経糸を寄せてしまい、結果として織巾が縮んでしまうという話でした。
緯糸を1段入れるのに必要な長さは、織り幅の長さに加えて、経糸の上下が切り替わるたびに経糸の上下に渡るための長さが必要になる、ということですね。
つまり、
緯糸1段に必要な長さ=織巾の長さ+ピンと張った経糸の間を上下するために必要な余裕分の長さ
という事になります。
織巾が縮んでしまう理由とこの式を踏まえて、先程の4つの条件、
・経密度
・織組織
・糸の素材と作り
・技法
ごとに適切な緩みの量を考えてみましょう。
まず経密度ですが、密度が高ければ必要な緩みは多く、低ければ少なくなります。
何故かというと、経密度が高ければ同じ織巾でも緯糸が経糸の上下を渡る回数が増えるため、緯糸1段を入れるのに必要になる糸の長さが増えるのです。
その為、同じ糸・同じ織巾・同じ組織で織るとしても、50羽の筬で織ったものと同じ緯密度になるよう60羽でも織りたいなら、緩みをより多くとる必要があります。
織組織の場合の緩みの必要な長さについても、考え方は同じです。
緯糸1段分の中で経糸の上下が切り替わる回数が多ければ必要な緩みも多く、切り替わる回数が少なければ必要な緩みも少なくなります。
組織で考えると、同じ織巾・同じ糸・同じ経密度なら平織よりも綾織の方が必要な緩みは少なくなり、綾織の中でも糸の浮きが長い方が緩みはより少なくなる計算です。
次に、糸の素材と作りについても考えてみましょう。
まず素材については、縮みやすい毛糸などは緩みを多く取る必要があります。
毛糸に比べて縮みにくい絹や麻などは緩みを取る量は少なくても大丈夫です。
ただし、糸の作りによってはそういった縮みにくい素材でも縮みやすくなっており、緩みを取る量を増やす必要ができます。
縮みやすい糸の作りとしてはリリヤーン糸などの、糸自体に伸縮性があるものが挙げられます。
最後に技法についてです。
技法によっては、経密度や組織に関わらず、例外的に緩みを取る量が変わる場合があります。
例えばラーヌ織りの場合、平織組織で経密度を粗くかけますが、緯糸をしっかり打ち込むために、緩みは基本的な平織と比べて多く取る必要があります。
逆に、同じ平織組織でも経密度を密にして織るリップスマット技法の場合は、経糸の間に緯糸を上下させるわけではないために、緯糸の緩みはほぼ取らずまっすぐ横一文字に緯糸を入れます。
このように技法によっては緯糸の緩みの必要な長さが異なる場合がありますので、緩みの長さを考えるときは、これからどんな技法で織るのか?をまず最初に意識して、その後に経密度や組織、そして糸の素材や作りの影響を考えるのがいいでしょう。
「適切な緩みをとる」と一言で言っても、その「適切」を求めるためにはこのように様々な要素を考える必要があります。
とはいえ、実際に織ってみれば「あ、今回はこれくらいの緩みで綺麗に織れそう!」というのが見えてきます。
逆にいえば、実際に織ってみないことには本当の適正な緩みは見えてきません。
今回ご紹介した考え方を、ゴールまでの試行錯誤の道のりを短くするためのナビゲーションにして、色々お試しいただけましたら幸いです。
また、当店ではオンラインレッスンにて、組織や技法ごとに織り方をご紹介しており、レッスン中には講師の手元を見て、組織・技法ごとの適切な緯糸の緩みの取り方を学んでいただけます。
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