織り機にセットする経糸を準備する「整経」の方法をご説明いたします。
整経台を使った、基本的な方法を確認してみましょう!
目次
①織りたいサイズを作るために必要な整経長と整経本数を計算する
整経を始める前に、どれくらいの長さの経糸を何本用意すれば必要なサイズの作品を作ることができるのかを計算します。
整経長は、『織る長さ+織り機にセットする為に必要となる部分(捨て分)』で計算します。
最初に、『織る長さ』を考える必要があります。
織る長さは、『必要な織地の長さ+縮み分(織り機から外した時に縮んでしまう分+仕上げ作業によって縮む長さ)』と考えます。
この時の縮み分は、伸縮の少ないストレートな麻糸や絹の場合はあまり多く無くて大丈夫です。
反対に、縮みやすいウールなどを経糸に使う場合は、織った長さの5~10%ほど、さらに糸の形状や織り方によっては更に縮んでしまいますので、その点を考慮して織る長さを考える必要があります。
捨て分は、使う織り機によって異なります。
基本は、【千巻きに経糸を結びつけるのに必要になる長さ+織りあがった時の織地の際から男巻きまでの長さ】です。
アートルーム のような卓上織り機でも50cm程度は捨て分が必要になりますし、大型の足踏み織り機なら捨て分はさらに長くなります。制作に使用する織り機に合わせて考えましょう。
整経長が計算できましたら、上の図のように、両端を輪にした整経長の長さの糸(ルート糸)を用意します。
ルート糸に使用する糸は、伸び縮みの少ない太めの綿糸を使うのがおすすめです。
今回この説明では、この糸のことを『ルート糸』と呼びますが、特に決まった名称はありません。
整経長が決定したら、次に整経本数も計算します。
先ほど、整経長を計算した時に縮み分を考えましたが、織り巾にも縮み分が必要になります。
織り機にセットするかけ巾は【織り上がりに必要な寸法+縮み分】です。
整経本数は、『1cmあたりの筬密度 × かけ巾(cm) 』で計算します。
例えば40羽の筬を使用して、かけ巾50cmで織る場合の整経本数は、4×50で200本となります。
整経本数が決まりましたら、経糸デザインに合わせてそれぞれの縞ごとの本数も計算しておきましょう。この時、それぞれの整経本数は偶数本で考えておいた方が作業がしやすくなります。
また、筬通しの時に『丸羽』(筬の1目に経糸を2本ずつ通す)や、『空羽』(1目ずつ飛ばして経糸を通す)場合は、それも考えて整経本数を計算する必要があります。
②整経の道筋を決める
整経長・整経本数の計算が決まりましたら用意したルート糸を使って、経糸を整経台に掛けていく道筋を決めましょう。
整経台は、目線の高さに整経台の上部がくるように、立てかけるか壁などに固定して使います。
整経方法は、機かけの手順によって多少異なります。
今回は、粗筬もしくはくし筬を使用して男巻きに経糸を先に巻き込んでから綜絖通し・筬通しを行う場合の整経方法を説明していきます。
まず下の図のように、整経台の左上のピンにルート糸の片方の輪を引っ掛け、スタートします。隣のピンは上、その次のピンは下、以降のピンは全て外側を通るようにルート糸をピンにかけていきます。
もう片方の輪をピンに通した時に、ルート糸がだぶつかず、かといって引っ張りすぎて糸やピンに負担がかかってしまわない道筋を探します。ちょうど良くルート糸が張れる糸の掛け方をいろいろ試してゴールを決定します。
③整経をする
道筋が決まったら、いよいよ整経です。
経糸用の糸の端を、ルート糸のゴールになったピンに結びつけます。
ルート糸と同じ道筋をたどって、ゴールからスタートへと糸をかけてください。
今回想定している機かけの方法では、綾から遠いゴールのピンから糸をかけ始めます。上のスタートのピンで折り返した糸の輪の部分は男巻きの織り付け棒に通しますので、なるべくそちら側に糸端が来ないようにします。
整経する際は、糸を引っ張りすぎないように注意してください。
経糸を強く引っ張ってしまうと、整経している間に糸に強い負担がかかってしまいますし、整経台から外したときに糸が縮んで、必要な整経長より短くなってしまうことも考えられます。
糸がダブついてしまわない程度、真っ直ぐ張られる程度の力で渡していってください。
左上のピンまできたら、下の図のようにピンを支点に折り返します。
この時、赤丸で囲った部分は図にある通り、ピンの上を通る・下を通るを行きの時とは互い違いになるよう糸を渡して『綾』をつくります。
行きは右から左へ、ピンの下・ピンの上と糸を渡し、
帰りは左から右へ、ピンの下・ピンの上と糸を渡していく形です。
この綾の部分が、綜絖通しの際に経糸の順番の目印になります。
綾の部分の糸の動きを間違えないように注意しながら、決めた道筋を行き来して整経を進めていきます。
綾の部分を上から見ると、下の図のようになっています。
その時に整経本数の半分の経糸が、左右それぞれのピンの上に乗っています。
左右のピンの片方に連続して糸が乗っていたら、綾の部分の糸の動きを間違えています。
間違えた部分まで巻き戻って直してください。
綾の部分は糸が見えやすいため、何本整経できているのかは綾の位置で数えます。
しかし、綾の部分で数えたとしても、経糸の本数が数百本ともなると、今何本目だっけ?となるたびに毎回1から数え直すのは大変です。
整経本数が多い場合は、下の図のように、色のわかりやすい別糸を使って経糸10本ごとに軽く束ねるようにして目印にすると良いでしょう。
④経糸の変え方
整経中、別の糸に変える場合は、原則として偶数本ごとに、つまり最初に糸端の輪を通した整経のスタートのピンの位置で変えるようにしてください。
もし左上のゴールのピンで変える場合は、男巻きの織り付け棒に通せるように糸端をゆったりとした輪にして結んでおきます。
経糸をスタートしたピンで糸を切り替える場合は、しばらく使用しない糸の端を、ルートをとるのに使っていない近くのピンに糸を巻きつけておいてから別の糸で整経をし、また元の糸を使う段になったら巻きつけておいた糸を解いて整経を続けます。
経糸の順番はあくまでも綾の部分で決まるため、図の左下のようにスタートのピンの部分で糸が渡ったようになってしまっていても、問題はありません。
⑤経糸を縛って整経台から外す
必要な本数の経糸が整経できたら、整経台から経糸を外すために何箇所か別糸で縛って固定します。
まず最初に、綾の部分を縛ります。
下の図の左のように、綾のクロスの両脇の左右のピンと同じところを通すようにして結束糸などのしっかり縛れる太めの糸を通し、糸端を結び輪にします。この時に間違った所に糸を通してしまうと、せっかく正確に取れていた綾が崩れてしまうので気をつけてください。
図のように、綾を結んだ糸の輪の両端部分を蝶々結びにしておくと綾が安定します。
綾が縛れたら、図の赤い★印の部分を経糸が動かないようにギュッと縛ります。
スタートとゴールの糸が折り返している所、それ以外も図のように2箇所〜整経長によっては3箇所、4箇所と縛ってください。
80〜100cmごとに1箇所程度の目安で縛ってください。
・綾の部分
・スタートとゴールの糸の折り返し部分
・上記以外にも2箇所以上
以上の箇所がちゃんと縛ってあることを確認したら、整経台から経糸を外します。
糸がかかっている全てのピンから、糸を少しずつずらして外してください。
整経台から経糸を外したら、整経は完了です。
もし整経の後に機かけをすぐに行わない場合、経糸がもつれてしまわないように大きく鎖編みをしてまとめて保管しておきましょう。
いかがでしたか?
今回は基本的な整経の方法をご紹介いたしました。
基本をマスターすれば、応用も簡単です。
例えば、今回「別の糸に切り替える場合は、原則として偶数本ごとに、つまり最初に糸端の輪を通したスタートのピンの位置で切り替えるようにしてください。」と書きましたが、リップスマットなど、経糸を1本交互で切り替える必要のある織り物もあります。
そのような場合は、【手織講座】2色の糸を交互に整経する方法 -東京アートセンター の動画を参考にするのがいいでしょう。
変則的な整経も基本の整経、特に綾の部分の糸の動きが理解できれば応用できると思います。
また、段染め糸で輪整経にしたり(参考:輪整経にチャレンジ!)整経の方法で手織りの楽しみを広げることが出来ます。
基本のやり方をマスターしたら、ぜひチャレンジしてみてください!